人は脳の10%しか使っていない
残りの90%を目覚めさせれば、誰でも天才になれる。そう聞いて、少しだけ期待したことはありませんか。
噂の内容
あなたの頭の中には、まだ誰も使ったことのない広大な領域が眠っている。人間が使っている脳はわずか10%で、残りの90%は手つかずのまま。もしそこを目覚めさせることができたら、記憶力も集中力も桁違いに伸び、テレパシーや予知のような力さえ手に入るかもしれない。超能力者と呼ばれる人々は、その扉を偶然開けてしまった人たちなのだ、と語られることもありました。
この魅力的な話は、20世紀を通じて世界中に広まりました。自己啓発の本やセミナーは「眠れる脳を開花させよう」と呼びかけ、速読や記憶術の広告にもたびたび登場します。天才と呼ばれる人は脳をたくさん使っているのだ、という説明は、とても分かりやすく聞こえました。「10%」という具体的な数字も絶妙です。少なすぎず、多すぎず、努力次第で伸ばせそうな気がしてくるのです。
さらに映画がこの説を決定的に有名にします。謎の薬で脳の力を解放した男が成功を手にする『リミットレス』、脳の覚醒率が上がるにつれて超人化していく女性を描いた『LUCY/ルーシー』。スクリーンの中の彼らは、まさに「残り90%」を使いこなしていました。
有名な科学者がそう言っていた、という話も語られます。ただ、その発言が本当にあったのかを確かめようとすると、なぜか出典はいつもぼやけてしまうのです。
ささやかれる証拠
天才への憧れ
「自分にはまだ眠っている才能がある」という考えは、誰にとっても心地よいものです。信じたくなる話ほど、疑われずに広まりやすいと言われます。
偉人の名言とされる引用
アインシュタインなど著名人の言葉として紹介されることがありますが、確かな出典は見つかっていないとされます。それでも権威ある名前が付くことで、話に重みが増しました。
映画や広告での定番設定
SF映画や能力開発の広告で繰り返し使われたことで、多くの人が「どこかで聞いたことがある常識」として覚えてしまいました。
脳には謎が多い
脳の仕組みには今も解明されていない部分がたくさんあります。「まだ分かっていない」ことが、「まだ使っていない」ことと混同されやすいのです。
表向きの説明
脳の活動を画像で調べる技術の研究から、一日の生活の中で脳のほぼすべての領域が何らかの形で働いていることが分かっています。また、脳のどの部分が傷ついても、運動や言葉、感覚などに何らかの影響が出ることが知られており、「まったく使われていない90%」は存在しないというのが現在の脳科学の考え方です。
この説の出どころははっきりせず、「人は潜在能力のごく一部しか発揮していない」といった心理学者や著述家の言葉が、いつの間にか「脳の10%」という具体的な数字にすり替わったのではないかと考えられています。能力を伸ばす余地がある、という意味であれば、まったく的外れな話でもないのかもしれません。
ちなみに、脳の重さは体重のおよそ2%ほどにすぎませんが、体が使うエネルギーの約20%を消費していると言われます。これほど燃費の悪い器官の9割を遊ばせておく余裕は、生き物にはなさそうです。脳は、何もしていないように見えるときでさえ、休みなく働き続けているのです。
さて、あなたはどちらを信じますか。この噂、誰かに話したくなったら